令和に囲碁と将棋を語る

奈良県在住。囲碁はパンダネットや幽玄で6段、野狐で5段、将棋はぴよ将棋で1級程度です。

【読書】「万華鏡」

20世紀SF〈1〉1940年代―星ねずみ (河出文庫)の中に収められている「万華鏡」という短編を紹介する。レイ・ブラッドベリ作。15ページほどの短さなので、誰でも読めるだろう。

 ロケットが爆発し、乗組員が宇宙に投げ出されるところから、この話は始まる。バークリー、ウッド、ホリス、ストーン・・・みんな宇宙に投げ出され、離れ離れになる。生き残る可能性はまずない。

 みんなが思い思いに最後のときを過ごしていく。あるものは言いたくてもいえなかったことを言い、またあるものは何も言わない。

 この短編の主人公のホリスは、「あれもやりたかった、これもやりたかった」と思っている側の人間。つまり「何も成し遂げることができなかった」(と自分で思っている)人間である。充実感も、達成感も味わっていない人間だ。まるで私みたい。

 そんな彼は死ななければならない。あんな夢、こんな夢をかなえるチャンスはもはや残されていない。その彼は最後に何を思い、何を願ったのか。彼は次のように思いをめぐらす。

「おれは?このホリスは?おれにもなにかできるだろうか?無為に送った最低の人生を償うようなことが、最後になにかできるだろうか?ひとつでいいから、意味のあることがしたい・・・」



そして彼はひとつのことをやり遂げた。その「やり遂げたこと」というのは、必ずしも、他の人の目にとまったかどうか、わからない、ささやかなこと。しかし、最後に「やりとげた」と本人が思うことができただけ、彼は幸せな死に方をしたのかもしれない。幸せな人生であったのかどうかは、また別だけど。