【囲碁】坂田栄男からみた昭和の各棋士たち(その3) 藤沢(秀)、山部、梶原
勝つ―碁と根性 (1965年)という書物がある。昭和のタイトル王・坂田栄男の著書である。その中に、坂田からみた各棋士の印象が書かれているので、数回にわたって紹介しようと思う。
今回は、藤沢秀行、山部俊郎、梶原武雄についての坂田の感想を紹介する。3人とも、坂田よりも何歳か若い世代の名棋士である。
【注意】この本の発行年は「1965年(昭和40年)7月1日」(脱稿は同年5月と思われる)である。つまり、坂田が名人本因坊であった頃の、彼が絶頂だった頃の本である。そのことを念頭においたうえで読む必要があると思う。
【藤沢秀行】
なかなか冷静なところもあるが、精神的に未熟なところがある。碁は重厚で鋭く、才能は豊かで向う意気も強いけれども、いったんくずれるともろい。そういう点で、もっと精神を鍛練する必要があると思う。 豪放さの反面に、細心で臆病なところもあるので、どうかするとそれがマイナスになっている。
技術面ではある程度完成されていて、大局観も確かなら独特の強さを持ってはいるけれども、精神的に欠けるところがあって、本当の意味の苦境に堪えられない憾みがある。
【山部俊郎】
この人の碁は、才能という点ではいまの碁会でも有数だと思う。だが、なにしろ妙に神経質なところがあって、あまり細かいところに気がつきすぎる点がマイナスで、勝負としては大変に損をしている。
もう少し神経が図太くなってくると、どんどん大きな勝負にも出てこられるのに、一番江戸っ子のわるいクセを持っており、自意識過剰で大勝負に弱い。 出足が早くて鋭く、相当な碁なのだけれども、ムラ気が多くて集中力が足らない。
だから、こういった神経とか精神面の弱さを克服することが、この人には一番大事なことだと思う。
【梶原武雄】
部分的な鋭さではたいしたものだけれども、どことなく対局観が甘い。まだ大勝負の経験が浅いから、無理といえば無理だけれども、ものの考え方が少し狭いとはいえそうだ。
特異の才能があって、碁界でも珍しい存在だが、それがどうも本当の開花を見ないという感じである。