令和に囲碁と将棋を語る

奈良県在住。囲碁はパンダネットや幽玄で6段、野狐で5段、将棋はぴよ将棋で1級程度です。

【囲碁】藤沢朋斎(庫之助)九段の見損じ(呉・藤沢第二次十番碁第9局)

かつて日本棋院に、藤沢朋斎(ほうさい)(1919年生~1992年没)という人物がいた。昭和20年代から30年代にかけて大活躍した棋士で、日本棋院の大手合いによる昇段制度が始まってから最初の九段であることで知られている。真似碁でも知られている。

さてこの朋斎九段、昭和26年から27年にかけて呉清源と第二次10番碁を打った(ちなみにその時点では藤沢庫之助(くらのすけ。これが本名)九段であった。「朋斎」は後年に名乗ったものである)。

第二次10番碁の結果は藤沢の2勝7敗1ジゴ。負け越したのも痛いが、それ以上に痛いのは「四つ以上の負け越し」であった。4つ以上負け越すと、「打ち込まれた」と見なされる。つまり同じ九段でも「格下」の烙印を押されてしまうのである。(もっとも、囲碁を知らない人達にとってはどうでもいい話ではある)。

7回負けたうちのどれでも良いから勝っていれば、少なくとも「打ち込まれ負け」はなかった。どこかで勝っていれば・・・。

よく言われるのは、第5局で藤沢が逆転負けしてそこから十番碁の流れが変わったんだそうな。それもそうだが、「打ち込み」が決定した第9局もなかなかの痛い逆転負けであった。しかもその見損じがアマチュアでも少し考えればわかりそうなミスだったのである。それを紹介しよう。

 

↓(実戦・184手までの局面)

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↑昭和二七年六月の対局であったらしい。黒番が藤沢、白番が呉清源。白が中央184と押さえたところ(△)である。この時点では黒番藤沢の勝勢、あるいは大優勢だったらしい。私の見立てでは盤面で三,四目黒が良いかな、という感じ(あくまでヘボアマチュアの私の目算である)。

ちなみに十番碁にはコミがない。 もし私の目算通り、三目くらい黒が良いとすれば、大差で黒が良いと言えよう。プロにとって、最終盤に入って三目良いのであれば、「大差」と見なしても良いだろう。 さて、白184に対して黒はどう打ったか?それは次図で。

↓(実戦・黒185の敗着!)

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↑黒はなんと、黒1(実戦では185手目)と中央の黒石を伸び出した。これは藤沢の凡ミスであり、恐らくは敗着だろう。なぜか?それは次図で・・・というか、次図を見なくても、凡ミスの意味がわかるかもしれない。 

↓(実戦・とられた)

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↑白1(実戦では白186手目)のコスミが先手で利くのをうっかりしていたのだろう。これが利くと、白3外から包囲されて、中の黒2個は動けない、逃げられない。黒からすれば、わざわざ一手費やしてなおかつ捕獲されたのだから、形勢が悪くならないわけがない。

この一局、最終的には白の三目勝ちに終わっている。この瞬間、藤沢は2勝6敗1ジゴと4つ負け越した。つまり「打ち込まれて」しまった。

上の図の白1,3のカケは、私でも少し考えれば分かる手筋である。でもトッププロの藤沢はこれが見えていなかった。正確に言えば、見えていたのだろうけど、秒に読まれてうっかりしていたのだろう。どちらにしろ、凡ミス、恥ずかしいミスであることには違いない。藤沢自身が一番恥ずかしい悔しい思いをしたのは言うまでもない。ネット時代の現代にこんなミスを大舞台でやらかしたら、掲示板が大荒れになるのは間違いない。

さてこの十番碁、二日制(もしかしたら三日制かも)であった。つまり、持ち時間が長い。持ち時間が長いと納得するまで考えられるから、対局のレベルが上がる、と考えたいところであるが、それでもこのようなミスが起きる。ミスが起きるだけでなく、そのミスで勝敗が決まってしまう。こういうミスを見ていると、「適切な持ち時間とは?」と考えてしまう私であった。

最後に、当時の観戦記者のコメントを紹介させていただく。

-黒181まで完璧なヨセで終始しながらなぜ黒はこの期に及んで185と中へ向かって突進する気になったのか。今まで鳴りをひそめていた呉氏の目がギロリと輝いて186とコスんだ時、藤沢氏思わず膝をいやというほどたたいた。しまった!と。目先がグラグラとくらんだに違いない。やおら白に188とピッタリ取られようとは今の今まで思っても見なかった。何という痛恨事か。

(中略)

もうここまで来ては名人がタバになって来ても負けのないと思われるところで、185の大錯覚からワザワザ負けに行ったような打ち方をしてあたら一局を台なしにし、延いてはこの戦後の第一次十番碁に屈辱的なピリオッドを打たれたことはなんとしても藤沢氏にとって寝覚めが悪かったであろう。
(覆面子観戦記より)

 

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